総合内科領域 監修
島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター
助教
和足 孝之先生
Dr.Takashi Watari
PROFILE
- 2005年神戸大学大学院自然科学研究科修了
- 2009年岡山大学医学部卒業 (学士編入学)
- 2009年湘南鎌倉総合病院
- 2013年同総合内科チーフレジデント
- 2014年東京城東病院 総合内科 副チーフ
- 2015年マヒドン大学 臨床熱帯医学大学院
- 2016年島根大学卒後臨床研修センター 助教 教育専任医師 現在に至る
- 2018年ハーバード大学医学部GCSRT在籍中
INTERVIEW インタビュー
総合内科医のお仕事
僕らは“どんな病気でも診る”医師です。病院にはいろんな症状の患者さんが来られますが、徹底的に病歴を聞き、丁寧に身体所見を取ることで診断に結び付けることを仕事にしています。いわば病院内のコンダクターのような存在で、「よし! あなたの病気は〇〇だよ。〇〇科に行こうか」というように、患者さんが治るための案内をしています。
総合内科は、比較的近年に認められて成長してきた診療科ですが、海外ではホスピタルメディシンとして非常に発達しています。これまで日本の医学界は、さまざまな領域の専門医を育てることに力を注いできました。そのかいあって多くの国民が専門的な治療を受けることができる時代になったのですが、代わりに診療と診療の狭間に落ちてしまうようなケースが目立つようになりました。複数の専門科のところへ行ったけれど、結局なんの病気かわからないうえに、それぞれの科で高額な検査をしてしまった――こんなことでは病気は治りませんし、医療経済的にも負担がかかりますよね? そこで、10年ほど前から厚生労働省が打ち出しはじめたのが、これからはどのような主訴でも、来られた患者さんを横断的に診察できるジェネラリストを育成し、超高齢化社会に対応するという方針です。僕はその最初の教育を受けた世代です。
まるで探偵のような十朱の診察を受けてみたい!
頼れる総合内科医に出会うポイントをお伝えします。いまでこそ全国の大病院に開設された「総合内科/総合診療科」ですが、専任の医師が診察しているところと、各専門内科から派遣される医師が持ち回りで診察しているところがあります。十朱のような診察、という意味では前者をおすすめします。
ただ後者が悪いというわけでは決してなくて、さきほども言ったように総合内科医の育成がはじまってからまだ間もないことと、絶対数が少ないことから、そこに若い医師達が集っているかどうかをひとつの目安にするといいかもしれません。全員が若くなくてもオッケーです。トップがベテランの先生でもその下に若い医師が複数いる総合内科には、ジェネラリストとしての教育があるから集まっていると考えられます。医学の世界では、若い人の集まるところには必ず良い教育があります。
「ホワイトプレイヤー」プロジェクトについて
二つのことを考えました。一つには、マーケティングの理にかなっているな、ということ。需要と供給を説いたアダムスミスの“神の見えざる手”に落とし込んだ企画だと思いました(笑)。僕たちジェネラリストには、ときに患者の立場となる女性のみなさんに伝えたいことがある、そして、みなさんにとってその情報や癒しはいままさに欲していたものである、そう信じてプロジェクトに関わっていきたいですね。
もう一つには、ジェネラリストを売り込むチャンスだと考えました。まだまだ世の中はドクターの専門性が高いほど正しい診断をつけてくれると思っているのではないでしょうか。そういった中でジェネラリストがどう生きていくのかということは、難しい問題です。僕の師匠、徳田安春先生(群星沖縄臨床研修センター)はNHK『総合診療医ドクターG』でジェネラリストの存在を世に広めてくれましたが、僕も師匠のように後輩たちの道を拓くことに貢献できればと思います。
十朱巧と和足先生の似ている点、異なる点
かなり似ています(笑)。プロジェクトへの参加が決まったあと、制作スタッフさんが打ち合わせや講演会の見学に来て交流を持ちましたが、なにかと十朱に反映された気がしますね。たとえば十朱の弱点「病歴の取れない子ども」は、僕が打ち合わせでぽろっとこぼしたそうです。小さな子どもにはまだ病歴がないから少し苦手、と。実際のところ、診断の7~8割位が病歴の聞きこみに基づいており、身体所見が決め手となるのは2~3割という論文もあるくらいです1)。病歴が全く取れなければ、我々は得意技を封じこめられたのも同然の状態で、苦しい戦いを強いられます。
ということは、僕は自分の弱点を晒しつつも科学的見地から正しい十朱のキャラクター設定にひと役買ったわけで、まぁいいか(笑)。「性格:熱血漢でお人よし。かっこつけ。自信家」など、後半悪口のような記載もありますが、これもスタッフさんから見た僕の印象なのだろうと受け入れています。
1) Peterson MC, et al: West J Med. 156(2); 163-165, 1992
総合内科医から大人の女性に啓発したい疾患
山ほどあります! ただ、僕たち総合内科医は絶対に患者さんを選びません。どんな症状の患者さんが来ても、のちのち専門科に紹介することがあっても、まずは自分で丁寧に診る、治療するというスタンスです。だから、僕たちが「〇〇(疾患名)のひと、こんな症状のひとは総合内科に来てね」とはあんまり言わないかな。みなさんがいま困っている症状を、なんでも相談してくださいね。
はじめて総合内科にかかる方へのメッセージ
僕らは患者さん・疾患・症状を選びませんが、だからこそお役に立てるのは原因不明の症状のときです。そんなときはぜひ総合内科に来てください。漫画の中でも十朱がわずかなヒントから病因をさぐっていきますが、患者さんには名探偵に協力しているとでも思って、どんな些細なこともお話しいただけると助かります。診察室では誰しも緊張するものなので、思い当たることはあらかじめ詳細にメモして渡してくだされば、医師としては非常に嬉しくなります。
「素人がくちをだすと楽しめる部分が変わってしまいそうなので、科学的見地から誤りであるところのみ赤字を入れるようにしています」
(和足先生)